第5章 7月
―黒尾鉄朗と時間切れ―
梟谷での合宿を終え、また月曜日がやってくる。部活が始まる前、いつもの区民体育館でネットを準備するリエーフ、犬岡、芝山の3人組。
それはリエーフの突飛な発言から始まった。
「オマエらさ、鈴がジャージ脱いだとこ…見たくね?」
「は、灰羽くん!何言ってるの!?」
上擦った声で過剰な反応する芝山。一方の犬岡は顔を耳まで赤くして、池の鯉の様に口をパクパクさせていた。
「別に俺はハダカが見たいって訳じゃねーよ。いや見れるなら見たいけど、そうじゃなくて……他の学校のマネージャー見ただろ?Tシャツ!生脚!なのに鈴ッ!アイツだけなんで完全防備なの?おかしくね?」
拳を握り力説するリエーフの勢いに呑まれ、犬岡も頭を捻る。
「確かに暑い暑いって言ってるのに、なんで脱がないんだろ」
「だろ?アイツ水泳の授業もずっと休んでるだぜ?絶対何か隠してる」
「ちょっと二人とも…鈴さん来てるんだけど」
芝山の発言で場は静まり返った。
更衣室で着替えを終えた、上下ジャージ姿の鈴に注目が集まる。
3人が手を止めてまじまじと見つめるもんだから、それだけで鈴は緊張してしまう。
状況が読めず石のように固まる鈴の後ろに歩幅の大きいリエーフが素早く回り込み、背後からガシリと両腕を掴む。
「…リエー、フ?」
突然自由を奪われた鈴は混乱しつつもなけなしの力で抵抗するが、骨と皮しか無いようなか細い腕が敵うはずもない。
「今だ!行け、犬岡!」
不敵な笑みを浮かべてリエーフは言った。
「いや、ちょっと灰羽、俺にはできねーよッ」
犬岡は首も手ももげそうな勢いでブンブンと横に振り、否定の意を表す。
「いいから行けよ!男だろ」
「灰羽くん、キミの言動は男の風上に置けないよ!?」
威勢がいいのはツッコミだけで、芝山は目の前の非常事態をどう止めて良いのかわからず、あたふたしている。
普段から暴走しがちな1年の中でストッパー的役割を果たしている彼も、女子が絡むとめっぽう弱い。