第5章 7月
犬岡くんはひとつのことに集中すると凄いって研磨も鉄朗も言っていた。
だからアタックもレシーブもブロックも練習しなきゃっていう今の状態より、ひとつに打ち込んだ方がいいのかなって私なりに考えた。その結果のピンチサーバー。
「…そっか、試合に出るのはスタメンだけじゃないもんな!鈴、ありがとう!」
いつもの犬岡くんの笑顔に戻った。
さっきまでの不安が嘘みたいに思えて、私も釣られて笑う。
「ホントは俺、灰羽がどんどん上手くなって焦ってた。でも今は何だってできる気がする!鈴は凄い!」
すっかり上機嫌になった犬岡くんが近づいてくるからいつものハイタッチかなと両手を上げて準備すると。
「鈴ーッ!」
「っぐ……いっ犬岡、くん?」
なんと熱い抱擁が待っていた。
「鈴ッ、鈴ー!鈴は凄い!っへへ」
「く、苦し……」
犬岡くんの全力投球の感情表現にタジタジになっていたところ…
「犬岡ー、そろそろグラウンド集まらねーと怒られる、ぜ…って、オマッ、何やってんだよ!!」
呼びにきたリエーフに見つかり、さらにややこしい事になってしまった。
「鈴を離せ!」
「えー、灰羽だっていつもぎゅーってしてるじゃん」
「俺はいいの!親友だからッ!」
「ねえ鈴、俺は?俺は親友?」
高身長二人に挟まれ引っ張られ、もう何でもいいって投げやりになりながら私は頷いた。