第5章 7月
鈴ちゃんに膝枕をしている間に、俺もうとうとしてたみたいで。
またしても振動する携帯にハッと目を覚ます。
ジャージのポケットから転がって床に落ちた鈴ちゃんの携帯が着信を知らせて光っていた。
画面に映るのは、彼女の兄の名。
俺は躊躇わずそれに出た。
「っ鈴!メール気付かなくてスマン。大丈夫だったか?」
笑いそうになるのを必死で堪え、狼狽えるクロに言ってやった。
「鈴ちゃんなら俺の膝の上でスヤスヤ眠ってるぜ?」
「……あ?…エッ、誰?夜久?……えっ、え?どういうことだッ?」
我慢できずに笑う。クロ、慌て過ぎ。
思いっきり笑ったせいで鈴ちゃんも起こしてしまったみたいだし、そろそろ部屋に戻るとしようか。
「クロ、あんましぼやっとしてると、いつか本当に取られちまうぜ?」
「やっくんまで敵なのかよ…勘弁してくれ」
「敵じゃねえよ。俺はただ鈴ちゃんの味方なだけ。じゃあな、切るぞ」
やや一方的にだが話を締め括り、終話ボタンを押した。
勝手に電話に出た事を謝りつつ持ち主へと携帯を返す。
鈴ちゃんは何とも思ってない様子でこくりとひとつ頷いてそのまま大きなあくびをした。
その顔色は昨日と比べると大分良くなった気がする。
「…んじゃ、戻ろっか」
さっきまで触れていたぬくもりも、柔らかな髪の感触も隙だらけの寝顔も汗の匂いさえも、きっと後で一人思い出しては苦しくなるんだ。
恋と呼べないこの気持ちを胸の奥に隠したまま、俺は笑って君の手を引いた。