第5章 7月
―夜久衛輔とささやかな嫌がらせ―
飽きる程見た夢なのに、何度見ても慣れない。いつもより高い位置にある天井を見つめて浅く呼吸をするが、心臓はバクバクうるさくて、胸はぎゅっと苦しいまま。
窓の外はまだ仄暗く、枕元に置いてあった携帯電話を見ると待受画面に表示された時刻は朝の4時だった。起きるにはいつもより1時間も早い。
しかし瞼を閉じるとさっきの夢がまたぐるぐると頭の中で回るから、こうなってしまうともう一回寝るのは難しい。
もう高校生なのに変って思われるかもしれないけど、こういう時はいつもおばさんの布団に潜り込んで、背中を撫でて貰わないと寝れないのだ。
『俺が守ってやるから、安心して寝ろ』
ふと思い出すのは、優しく抱き締めてくれた鉄朗の体温。
(…ちょっと、手を繋いでもらうだけ。それだけ…)
男子の部屋を覗くなんて…と少しの後ろめたさを感じながらも、携帯電話の灯りを頼りに下の階に降り、鉄朗たちが寝泊まりしている部屋を探した。