跡部様のクラスに魔王様(Not比喩)が転校してきました。
第6章 鋭い視線が付け狙う
さて、魔王様が安らかに寝息を立ててお休みあそばしているその頃、談話室の1つには10人ほどの少女達の姿がございました。
学年も1年生から3年生まで、またクラスや部活もそれぞれでございますが、ただ――集まった全員が、跡部様を崇拝し恋い慕う乙女達でございました。
跡部様のファンクラブは氷帝学園内外に多数ございますが、その中でも人数少なくひっそりと活動しており、認知度も高くはございません。ですがそれは、彼女達が跡部様に熱く恋しておりながら、他の生徒達に知られれば身の程知らずと笑われてしまうようなその想いを語る場所を求め、そしてその想いを共有するがゆえに、抜け駆けを硬く禁じていたからでございます。
今までは、それで良かったのです。無論、跡部様にラブレターやバレンタインのチョコレートを贈り、また直接呼び出して告白するようなつわものも少なくはなかったのですが――それが女子だけではないとの噂もございますところは、流石は跡部様と言えましょう――跡部様は告白やラブレターは全て丁寧に断り、バレンタインのチョコレートは部員達と分けて食べたり、市販品であれば不審な点がないことを確認してから施設などに寄贈したりと、とにかく恋愛関係については何のスキャンダルも起こされない方でしたから、彼女達はただひたむきな愛を語っていられたのです。
だからこそ――突如として異世界より現れ、まだ恋愛感情とは言えないかもしれないにせよ、跡部様の関心を一身に奪って行った魔王ディオグラディア・ベルジャナール・ゴーディスヴェインは、彼女達にとって最初にして最大の脅威でございました。
まだ若い心に宿るのは、己の心だけが根拠の正義感。そう、あたかも年頃になった勇者が、魔王を倒す使命に目覚めるかのように……。
「だいたいあの魔王とやら、人間でもないくせに跡部様に取り入ろうなんて、生意気なのですわ!」
「跡部様も、あんな女のどこがよろしいのかしら」
「やはりあの紅の髪が珍しいだけでしょう。もしくは目の色。人ならざるあの姿なんて……」
良家の子女といえども、やはり甘美なる陰口の毒には負けてしまうもの。
けれどその中で、静かに皆を諌めたのは。
「皆様、やめましょう? 悪口に染まっては、跡部様への純粋なる恋心すら穢れてしまうかもしれないわ」
跡部様と同じ3年A組の最前列に座っていた、あの少女でございました。
