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跡部様のクラスに魔王様(Not比喩)が転校してきました。

第6章 鋭い視線が付け狙う


 さて、その日の夜のことでございます。
 割り当てられた氷帝学園の寮の部屋を隅々まで見て回り、ふむ、と魔王は小さく首を傾げました。
 風呂トイレ別、ミニキッチンもございますし冷蔵庫も備え付け、しっかりとエアコンも用意された、学生寮としては大変贅沢な部屋なのでございますが。
「機能的よな。よく、この狭い中にこれだけの必要なものを詰め込み、それでいて快適な生活を送れそうな程の広さは保っているとは、大した技術力と美的感性よ」
 流石に魔王の私室と比べましては、このような感想になるのもむべなるかな。いえ、魔王としましては、この部屋がなかなかに気に入ったようでございますが。
 荷物を置いてベッドに転がり寝心地を確かめる様子は、同い年の少年少女とさほど変わるところがあるとも思えぬくらいでございます。頭部から優美に曲線を描き伸びる2本の角の存在が、やはり彼女が人ならざる魔王であると物語ってもおりますが。

「しかし……『てにす』か」
 魔王にとって意味も分からないが忌まわしき単語であったそれは、今となっては心に残って離れぬ光景となって、魔王の脳裏に染み付いておりました。
 目を閉じれば、あの跡部様と越知選手の試合の様子が、まざまざと蘇ってくるようでございます。

「――あれに殺されるというなら、それも一つの生涯か……は、余としたことがとんだ感傷よ」
 ふ、と魔王は首を振って、一瞬脳裏に浮かんだ情景を振り払いました。それは……あの不敵な笑みを浮かべる、美しく整った顔立ちと、蒼の瞳。まるで、魔王の紅の瞳へと絡み付くかのような視線。手に持ったボールが狙うのは――それは無論魔王の望みではございませんし、一瞬幸いと思ってしまったことも気の迷いと片付けて、ふっと魔王は真剣みを増した瞳で呟きます。
「しかし、幾ら勢いがあれど、魔王たる余をあのような球や短杖……らけっと、とか言ったか、あれで殺せるとは思えぬのだがな」
 ベッドに寝転び天井を見上げたまま思索に耽っていた魔王は、けれど大変疲れていたのでございましょう。無理もございません、世界を超えた環境の変化、様々な意味で『てにす』を知った衝撃――その疲労のあまり、魔王はいつの間にかすやすやと眠っていたのでございます。
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