第8章 芽生えた感情【トド松、おそ松】
全て聞き終え、俺はため息をつく。これは…まさかの展開だよなぁ。
「じゃ、その元カレっての、本来は絵菜ちゃんの故郷にいるはずなんだよな。そいつも引っ越してきたってこと?」
「それが、分からないの…別れてからは一切連絡を取っていなかったから。電話番号だって新しく変えてからは教えてなかったのに、誰かが漏らしたとしか…」
「ふぅん…」
これ、事の次第によっては立派なストーカーじゃないのか?だって彼女がこっちにいることを知って引っ越してきたんだとしたらかなりやばくね?あと公園で会ったのも偶然じゃなかったら…
「私、あいつが嫌いなの…その、昔、いろいろあって…」
「君から、別れようって?」
「うん…。たまにね、思い出すの。あいつにかけられた言葉、その時の表情…忘れようとしても、記憶から消えてくれない。一年しか経ってないから仕方ないのかもしれないけど、早く忘れないと…私は、本当の意味で、前に進めないの」
「……」
正直、意外だった。
俺たちと一緒にいる時の彼女は、いつだって明るく元気で…とにかく、何事にもポジティブだった。
人間誰しも二面性がある、とはよく言うけれど。
なんとなく、彼女は俺たちに似ているって誤解してたんだ。
実際は正反対だった。だって俺たちに、彼女が抱えているような重苦しい過去なんてない。もちろん、彼女のことを全て知った気になってたわけじゃない。友達になったのだってごく最近だ。
知らなくて当然…なのに。
俺たちが…俺が、今までどれほど上っ面だけで彼女を判断してたのかと思うと…無性に自分を殴りたくなる。
…絵菜ちゃんが大切なんだな…俺。
「…なぁ」
ずっと俯いていた彼女が、俺の言葉に顔を上げる。
そして、澄んだ瞳で真っ直ぐ俺を見つめてきた。
「もしさ、これからもそいつが何かちょっかい出してくるようなことがあったら…俺を頼ってくれていいから」
守ってやりたい。俺は別に彼女にとって特別な存在でもなんでもないけど、
せめて、¨友達¨として…彼女の支えにくらいはなってやりたいんだ。
…そう、あくまで¨友達¨。