第8章 芽生えた感情【トド松、おそ松】
…と、その時、スマホの着信音が鳴った。
絵菜ちゃんが「いいよ」と言うので、僕は彼女から少し離れて電話に出る。
「はい、もしも…
『トッティ!どこにいるの?私たちのこと置いてきぼりにしたでしょ!』
…わ、まずい。女の子たちのことすっかり忘れてた。カンカンに怒ってる…。
「ご、ごめんごめん。その、ちょっと野暮用があって…
『とにかく!ご飯奢ってくれるんでしょ?さっきの公園で待ってるから、早く来てね!』
「え、えぇ!ちょっ
プツンッ!ツーツーツー…
…うっわぁ、どうしよ。途中で放ったらかしにした僕も悪いとは思うけど、今はそれどころじゃ…
「…トド松くん?あの、今の電話…」
!しまった、絵菜ちゃんに聞かれちゃってたかも!けっこう大声だったし。
「あ、あはは、なんでもないよ。気にしないで?」
「…もしかして、私を助けてくれる前、誰かと出掛けてる途中だったの?」
「うぇっ!?そ、そんなことは…」
取り繕おうにも、いい嘘が思い浮かばない。僕なんかの私情なんて、今はどうでもいいのに。
「ふふ…トド松くん、嘘、下手だね」
彼女が小さく笑う。
「助けてもらったことは、すごく感謝してる。トド松くんが私を見つけてくれなかったら、今頃どうなってたか分からないよ。トド松くんの優しさに、私は救われたの」
「…絵菜ちゃん…」
「だからこそ、私のせいで、トド松くんが他の誰かに悪く思われるのは嫌だ。…行ってあげて?トド松くん」
…本当にこの子は、どこまで僕の心を鷲掴みにすれば気が済むのだろう。
買い被りすぎだ。僕のことを優しいだなんて君は言うけれど、僕は誰彼構わず人助けをするほど、大層な人間じゃないよ。
君だから、なのに。