第8章 芽生えた感情【トド松、おそ松】
それから僕は、絵菜ちゃんの手を引いてうちに連れてきた。
ああいう男はしつこいタイプが多いだろうから、すぐ彼女を自宅に帰らせるのは危険だと思ったからだ。万一先回りされて待ち伏せでもされていたら、力のない僕じゃ勝ち目はない。
「ただいまー」
玄関の戸を開けて中に入る。静かだな、誰もいないのか?よく見ると靴もほとんどないし。
…まぁ、ちょうどいいか。とにかく彼女を休ませてあげないと。精神的にも疲れてるだろうからね。
「上がって?誰もいないみたいだから、しばらく居間で寛いで体を休めたほうがいいよ。僕、何か飲み物でも用意するね」
絵菜ちゃんに笑顔を向けて、台所に行こうとすると…
「トド松くん」
名前を呼ばれ、きゅっと服の袖を掴まれた。
「助けてくれて、ありがとう」
「!え…」
「まだ、ちゃんとお礼…言えてなかったから。本当に、ありがとう」
ふわっと、花のように微笑む彼女。
…ああ、そうだ。僕はこの顔が見たかったんだ。
何かに嘆いているような悲しみや涙じゃなくて、彼女の心からの笑顔が、僕は好きなんだ。
「…どういたしまして。君にそう言ってもらえるなら、本望だよ」
彼女が、少しだけ目を見開く。でもすぐにまた微笑んでくれた。
どうしよう、可愛いな。また抱き締めたくなる。