第8章 芽生えた感情【トド松、おそ松】
赤塚公園に面した通りに出る。この道を真っ直ぐ行くのが、店までの最短ルートなんだよね。
それにしても人通り少ないなぁ。平日なんてこんなもんか。公園だって子供すら…
ちらっと公園の方に視線を移した時、ベンチに座っている人影が目に入った。
…あれは、絵菜ちゃん?
間違いない。こちらに背を向けているけれど、あの姿は彼女だ。
それと同時に、彼女の前にいる男に気付く。少なくとも僕は知らない。彼女の友人?それとも…
…いやいや、僕が気にすることじゃないよね。彼女にだってプライベートがあるわけだし。お互い連れがいる以上、むやみに声をかけるわけにはいかないよ。
そう思い、公園の横を通り過ぎようとする。
その時だった。
「…ッ離して!!」
僕の耳に、絵菜ちゃんの叫び声が聞こえたのは。
「!」
再び視線を戻す。男が彼女の腕を掴んで、どこかへ連れていこうとしていた。
ただの痴話喧嘩かもしれない。でも、僕の目には彼女が本気で嫌がっているように見えて。
考えるよりも早く、僕は駆け出していた。
「え!どうしたのー!?」
女の子たちが何か言っている。けど僕はそれよりも、絵菜ちゃんを助けることしか頭になかった。
正面から立ち向かうのはきっと得策じゃない。それなら…!
咄嗟の判断で、僕は砂場に置いてあった子供用のバケツを手に取る。そして男目掛けて思い切り投げた。
スコーンッ!
「い゙ッ!?」
奇跡的に男の脳天に直撃し、体がよろめく。その隙に掴んでいた手が離れ、驚いた彼女がこちらを向いた。
「!と、トド松くん?!」
「絵菜ちゃん、こっち!」
僕は男の脇をすり抜けて彼女の手を握ると、そのまま一目散に逃げ出した。