第7章 動き出す、歯車
とその時、足元に小さな影が寄ってきた。
「にゃ〜」
「!」
「ルル!どこにいたの、探したんだよー」
屈んでルルを持ち上げ抱っこすると、すりすりと首元にすり寄ってきた。相変わらず可愛い。
「…それ…」
ルルの仕草にデレデレしていると、一松くんがじっとこちらを見ていることに気付いた。
「あ、紹介がまだだったよね。この子はルル、メスだよ。実家にいた頃から飼ってたんだけど、あまりにも私に懐いちゃってたから、一緒に連れてきたの」
「…ふ、ふぅん…」
それきり口をつぐんでしまう一松くん。でも視線はルルに注がれたままだ。
…そういえば前遊んだ時に、一松くん猫が好きだって言ってなかったっけ。
私は一松くんにルルを差し出した。
「…え?」
「抱っこする?大丈夫、人慣れしてるから」
一松くんはしばらく私とルルとを交互に見比べて、何かを思案しているようだったけれど、やがて恐る恐るルルに両手を伸ばし、そっと抱き抱えた。
「にゃぁ〜」
甘えた鳴き声を出すルルの頭を、一松くんが優しく撫でる。その手にすり寄るルルを眺めながら、彼はふっと微笑んだ。
「…!」
一松くんがあんなに幸せそうな表情を見せるなんて。
いつも無表情で、何を考えているか分からなかったから…だからといって怖いとか、冷たい人とか思ってたわけじゃないけれど、やっぱりちゃんと人間味のある優しい人なんだ。
「……可愛いね、こいつ」
「ふふ、そうでしょ?疲れた時とかに抱きしめるとすごく癒されるんだー」
「ああ…なんか分かるかも。っていうか俺、飼い猫って初めて触った。野良と全然違う」
ゴロゴロと喉を鳴らしているルル。すっかり一松くんに懐いちゃったみたい。
「野良猫に餌あげてるんだよね。飼おうとは思わないの?」
「半分飼ってるようなもんだよ。それに猫は同じ場所にい続けるのを嫌うから。気ままにマイペースに生きるのが猫。だからあえて家猫にはしないつもり」