第16章 踏み出す勇気【チョロ松】
街中を歩いていると、チョロ松くんが急に立ち止まった。
「…え、嘘…嘘でしょ…」
何やらぶつぶつと呟いている。視線の先には、小さな看板。んー、なになに…
「¨橋本にゃー緊急限定ライブ¨…?」
「のわぁッ!?」
私が読み上げると、チョロ松くんは大きく飛び上がる。そして、
「な、なな、なんでもない!なんでもないからね絵菜ちゃん!ほら、行こう!」
「わっ?!」
ぐいっと繋いだままの手を引っ張られて、そそくさとその場を立ち去ろうとする。
迷ったけれど、とりあえず彼についていくことにした。
「…はぁ、はぁ…」
「チョロ松くん、大丈夫?いきなり走ったりするからだよ」
「あー、うん…ごめん…」
ある程度走ったところでスピードダウンし、再び歩きながら私は肩で息をするチョロ松くんを気遣う。
逃げたってことは触れてほしくないんだろうけど…
「橋本にゃーって確か、地下アイドルだよね?」
「……へ?し、知ってるの?」
「うん。前テレビにもインタビューか何かで出てたし。地下アイドル業界では有名でファンも多いってテロップで流れてた。可愛いよね、あの子」
ぱぁっと彼は顔を輝かせる。
「そうなんだ!にゃーちゃんってほんと見た目も可愛いし声も可愛いし、けどちゃんとアイドルらしく歌もダンスも上手でファンにも優しくてサービス精神旺盛でその上に…」
まるで早口言葉のようにすらすらと彼女の魅力を語り出すチョロ松くんが微笑ましくて、私はつい吹き出してしまう。
「ふふ、大ファンなんだね」
「…は!!い、いいい、いやその僕はあくまで客観的意見を述べただけで…!」
チョロ松くんって、嘘つけないんだなぁ。しどろもどろになっちゃうからすぐ分かる。