第16章 踏み出す勇気【チョロ松】
映画館から歩いて5分ほどの距離にある和食屋さんで昼食を済ませ、私は精算をしているチョロ松くんを店の入り口で待っていた。
レジに人が並んでる光景なんて初めて見たな。わりと大きい店だし、こんな時間でもお客さんがたくさんいたから、不思議ではないのかもしれない。
時間がかかるから先に出てていいよ、と言われたけれど…落ち着かないなぁ。
「すみません。ちょっとよろしいですか?」
いきなり横から声をかけられる。視線を移すと、そこにはスーツ姿の若い男性がいた。手には何やらバインダーのようなものを抱えている。
「はい、なんでしょう?」
「私○○というテレビ局の者なのですが、ただいま番組に関するアンケート調査を行っておりまして、お時間取らせませんのでご協力いただけないでしょうか」
○○…ああ、知ってる。関東圏では有名なテレビ局だ。うちの地元じゃ入ってなかったけど。
いわゆる街頭アンケートってやつかな?すぐ終わるならやってもいいかも。
「いいですよ」
「ありがとうございます!ではさっそくこちらに…」
バインダーを渡される。全部で10項目か、選択するだけだし、これなら1分くらいで…
あれ?
「あの…すみません」
「はい?」
「この、名前とか、住所とかって、必須項目なんですか?」
よく見ると、アンケート項目の一番下に、名前や住所、電話番号の記入欄があることに気付く。普通こういうのって匿名なんじゃ…そうでなくても、個人情報を書く必要ってあるの?
しかし男性は柔和な笑みを向けてくる。
「ああ、それはですね。当社ではアンケートにご回答の方々全員に後日粗品をお送りすることになっておりまして。強制とまでは言いませんが、必ずもらえますので書いていただいたほうが得だと思いますよ。もちろん、粗品をお送りした後に、個人情報は当社規定の方法で削除いたします」
粗品か…うーん、必ずもらえるって魅力を感じるけど、何なのか分からないしな…どうしよう。
とりあえずアンケートに答えながら考えるか。そう思い、バインダーに挟まれていたボールペンを手に取る。
その時、
「何してるの?絵菜ちゃん」