第15章 気まぐれな猫は、恋を知る【一松】
「一松くんは髪、拭かないの?」
「別にいい。自然乾燥で十分。どうせ後で銭湯いくし」
「でも…あ、そうだ。一松くん、そのタオル貸してくれる?」
私は一松くんが持っていたもう一枚のタオルに目をやる。多分これも私のために用意してくれたものなんだろうけど、私はもう大丈夫だし。
「いいけど…」
私は差し出されたタオルを両手で持ち、それを一松くんの頭に被せてわしゃわしゃと拭き始めた。
「っわ…!な、なにして…っ!」
「濡れたままなのはよくないよ?私だって一松くんに風邪引かれると、夢見が悪くなるんだから」
多少強引だけど、彼にはこれくらいしないと分かってくれなさそうだもんね。
「〜っ…か、勝手にすれば…」
「うん、勝手にする」
あれ?てっきりもっと抵抗されるかと思ってたんだけど、なんだか意外。まぁ拭きやすいから助かるけど。
わしゃわしゃすること数分。それまで顔を赤らめながらもじっと耐えていた一松くんが、
「…あ」
と声を上げた。
「どうしたの?」
「…あれ」
彼が窓の外を指差す。鳥でも飛んでるのかな?
…違う。
「虹だ…!」
いつの間にか雨はすっかり止んでいて、雨雲がなくなった清々しい青空に、美しい七色の橋が架かっていた。
私たちは窓際まで移動し、一松くんが窓を開ける。そこから身を乗り出すようにして、虹を眺めた。
「…綺麗だね。都会でも、こんなすごい虹が見れるんだ」
「…前から思ってたけど、あんたの都会のイメージって極端すぎない?」
「あはは、ごめん。…そうだよね、空は繋がってるんだもん」
「うわ…クソ松みたいなこと言うなよ…」
「?」
またいつもの毒舌かな?と隣を見る。けれど一松くんは、心なしか穏やかな表情をしていた。
「…ふふ」
「……絵菜?」
思わず笑みが溢れる。…途中雨に降られちゃって大変だったけど、こんなデートも、悪くはないかな―。
「なんでもない!じゃあ一松くん、もう一回座ってね。まだ髪乾いてないよ」
「…げ、まだやんのかよ…」