第15章 気まぐれな猫は、恋を知る【一松】
松野家に着く頃には、雨もだいぶ落ち着いていた。どんよりとした雨雲にも、僅かに切れ目ができている。
この分なら太陽が出るのも時間の問題だろう。よかった…。
玄関に入る。2日連続でお邪魔しちゃったな。
「…いいよ、上がっても。誰もいないし」
「そうなの?」
足元を見ると、確かに靴が全然なかった。
「基本的にはうちの兄弟、みんなアクティブだから。父さんは仕事だし、母さんは買い物に行ってると思う。だからこの時間、誰もいないのは不思議じゃない」
「そっか…じゃあえっと、お邪魔します」
「俺タオル持ってくるから、あんたは二階の部屋で待ってて」
洗面所の方へ向かう一松くんを見送り、私は二階へ上がる。
この部屋に入るの、久しぶりだな。6つ子みんなの共同部屋にしては、掃除が行き届いててわりと綺麗だよね。おばさんのおかげかな?
ソファの側に腰を下ろす。その時、襖が開いて、タオルを持った一松くんが部屋に入ってきた。
「…なんで正座してんの?」
「え!あ、あはは、ほんとだ、なんでだろう」
謎の正座をしてしまっていた。部屋に二人きりだからかな?慣れなくて緊張しちゃってるのかも。平常心、平常心…
「?まぁいいや、はいこれ」
彼は首を傾げながらも、一枚のタオルを渡してくれる。
「ありがとう。あ、着替えたんだね」
よく見れば、一松くんはいつものパーカーにジャージ姿に戻っていた。
「ああ、さすがに水吸って重かったから洗濯機に放り込んできた。あんたは服、平気?」
「うん、一松くんに比べたら濡れてないようなものだよ。髪はだいぶ濡れちゃったけどね」
「まさか自分から雨に打たれにいくとは思わなかった」
「だ、だって、一松くんの姿見たら安心しちゃって」
「っいいから、それで早く拭けば。風邪引かれると夢見が悪くなる」
「ふふ、ありがと。じゃあ使わせてもらうね」
濡れている部分と髪を手早く拭いていく。新しいタオルなのかな?ふわふわしてて気持ちいい。