第15章 気まぐれな猫は、恋を知る【一松】
「!一松くん!」
彼は私の制止も聞かず、大雨の中を走っていき、すぐ人混みに紛れて見えなくなってしまった。
…どうしよう。追いかけようか。
でも、待っててって言われたし…
下手に動いたところで、慣れない土地で迷子になるわけにはいかない。彼は携帯を持っていないから、はぐれてしまったら合流するのも難しくなる。
…心苦しいけれど、待つしかない。せめて早く戻ってきて、一松くん…!
スマホの時計を見る。一松くんが傘を買いに行ってから20分が経過しようとしていた。
一応商店が立ち並ぶ通りだし、近場に傘を買えるお店くらいありそうなものだけど…心配だ。雨足もさらに強くなっている気がする。
30分経っても戻ってこなかったら、やっぱり私も…
そう思った時、向こうから見覚えのある服装の人物が傘を差しながら歩いてくるのが見えた。
「…一松くん!」
彼だと認識した瞬間、私の中で何かが弾けて…
形振り構わず、彼の元へと駆け出していた。
「…!」
勢いのまま、彼に抱きつく。案の定びしょ濡れの彼の体は冷えきっていて、私はきつく抱き締めた。
「一松くん…一松くんっ」
すがりつくように、彼の肩に顔を埋める。安堵や喜びが一度に押し寄せてきて…なんだか自分でもよく分からない。
一松くんはしばらく微動だにしなかったけれど、やがて傘を持っていない方の手で私をそっと抱き寄せてくれた。
「……あんた、バカなの。せっかく濡れないように傘買ってきたのに、これじゃ意味ないじゃん」
…言葉は辛辣だけれど、口調は優しくて。
あ…どうしよう、泣きそうだ、私。
彼の優しさに胸がじんとしてしまって、同時に涙腺が緩みそうになる。
「…うぅ…ごめん、ごめんね、一松くん…それと、ありがとう…!」
「……はぁ。ほんとあんたって涙脆いよな。…どういたしまして」
「一松くん…」
「周りの視線が痛いから、とりあえず移動しない?うちに来なよ。風邪引くとまずいでしょ」
…は!
そこでやっと我に返り、私たちの周囲にギャラリーができていることに気付く。十四松くんの時に続いて二度目!しかもこんな街中で…!
私たちは傘で顔を隠しながら、そそくさとその場を立ち去った。は、恥ずかしいよー!