第15章 気まぐれな猫は、恋を知る【一松】
しかしその後、一時間、二時間と待っても、雨は一向に止む気配がなく…
それどころか、バケツをひっくり返したかのような豪雨と成り果てていた。
「…どうしよう。もっとひどくなっちゃったね…」
「……」
店内には、私たちと同じく傘を持ってない人たちが猫と戯れながらなんとか時間を潰そうとしている。私たちもそうしたいのだけれど…
「…ごめん。もう出よう」
そう言って、一松くんはソファから立ち上がる。
「一松くん?でもまだ雨が…」
「あまり手持ちないから…これ以上料金が嵩むと困る」
う…確かにそうだよね。私もそろそろ限界かも。
「じゃあひとまずお店は出よっか」
「…ああ」
私たちは渋々お店を出て、入り口の屋根の下に移動する。
…雨、本当にひどいな。ずっと降ってるから、ゲリラ豪雨ってわけでもなさそうだし。普段から折り畳み傘くらい常備しておくんだった。
「…俺のせいかも」
「…え?」
「雨男だから…そうでなくても俺四男だし…存在自体もう縁起が悪いんだよね」
…まただ。
一松くんは時折、こうして異常なまでに卑屈になることがある。
他の兄弟はみんな明るくてポジティブなのに、一松くんだけは誰よりも自分を下に見てるんだ。
そんなことないのに…一松くんにだって、いいところはたくさんあるのに…
「一松くんのせいじゃないよ。急激な天候の変化なんてたまにあることだし、ね?」
「………」
無表情だから何を考えているか分からないけれど…納得してくれたかな?
「それにしてもこの雨、どうしようか。これじゃまともに歩くこともできないよね…」
かといって、このままずっとここで雨宿りするわけにもいかないし…困った。
いっそびしょ濡れ覚悟で走って傘を買いに行くしか…
「……あんたはここで待ってて」
近くに傘を売ってそうなお店がないか見渡していると、一松くんがそんなことを言ってきた。
「待っててって…一松くん、まさか」
「傘買ってくる」
「こ、この雨の中?!だめだよ、せめてもう少し待って
「二時間以上待っててこれなんだから、もう諦めるしかないでしょ。俺は別に濡れてもいいけど、あんたを濡れさせるわけにはいかない。だから、大人しく待ってて」