第15章 気まぐれな猫は、恋を知る【一松】
「…何、じろじろ見て」
「ご、ごめん!その、一松くん、今日はジャージじゃないんだね!」
「…!」
彼の服装は、少なくとも私が会った時はいつも一緒だった。紫のパーカーにジャージ、便所サンダル。たまにマスクもしてたっけ。
ところが今日の彼は、トレーナーにズボン、そしてスニーカー姿。猫背のままだけど、心なしかすっきり見える出で立ちだ。
「……一応、デートって名目だから変えてみただけ。って言っても俺にはこれが限界だけど、ジャージに便所サンダルよりはマシでしょ。…ただでさえ相手が俺でアレなのに、これ以上恥かかせたくないしね」
ほんのり頬を赤らめる一松くん。私は彼の気遣いが嬉しくて、同時に申し訳なくも思ってしまった。
「一松くん、無理…してない?」
「…は?」
「デートを意識してくれたのは嬉しいんだけど、一松くんには一松くんのままでいてほしいの。無理して私に合わせる必要はないし、その…」
うまく伝えられない。今の一松くんが嫌なわけじゃないんだけど…
するとどうやら私の言いたいことを察してくれたのか、一松くんははぁとため息をついて私と視線を合わせる。
「…別に、無理してないよ。それにこれも私服の一つだし、楽といえば楽だから。あんたってほんと、なんでも気にしすぎ」
「う!だ、だよね…」
「…まぁでも、それも美徳だとは思うけどね」
私には聞こえない小さな声で何かを呟いた後、一松くんはくるっと方向転換する。
「デートするんでしょ。とりあえず歩かない?」
「あ、うん!そうだね」
一松くんの隣に並び、歩き始める。
そういえば…一松くん、猫が好きだったよね。ルルのことも可愛がってくれてたし。
「あの、一松くん」
「…なに?」
「この後の予定って、何か決めてたりするかな?」
「……ごめん、決めてない。あんたの行きたいところでいいかなって思ってたから…」
よーし、それなら!
一松くんの目の前に移動すると、彼は何事かと驚いて私を見る。
「な、なに、進めないんだけど…」
「私、一松くんと一緒に行きたい場所があるの!良かったらこれからそこに行かない?」
「は…?」