第9章 僕らの知らない君【十四松、一松】
【十四松side】
「二人とも、まだかなー」
待ちぼうけすること30分。夕日がもうすぐ沈もうとしていた。
空を見上げながら、ぼんやりとさっきの絵菜の様子を思い出す。
『十四松くん…私も一松くんについていってもいいかな?』
あの時、一瞬迷ったんだ。まだ一緒にいたかったから。
でも、彼女の瞳を見たら、断れなかった。
そして、僕が今日ずっと、彼女を独占していたことに気付いたんだ。
故意だったわけじゃない。一松兄さんを蔑ろにしていたわけじゃない。
でも結果として僕は、無意識のうちに絵菜を独り占めにして、一松兄さんを傷付けてしまったに違いないんだ。
一松兄さんは、僕ら兄弟の中で誰よりも、寂しがりやなんだから…
「…戻ってきたら、一松兄さんに謝らないと」
おかしいな。僕、どうしちゃったんだろう。
一松兄さんと僕は、普段からよく一緒に行動する。家の中でプロレスごっこしたり、外に遊びに出掛けたり。
だから、兄さんのことは兄弟の誰よりも分かってるつもりだ。
いつもの僕なら、兄さんが拗ねる前に気付くはずだし、そもそもほったらかしになんてしないのに。
…絵菜しか、見えてなかったのかな?僕…。