第9章 僕らの知らない君【十四松、一松】
「ねぇ、一松くん」
「…何」
「今日は、ごめんね」
…は?なんで謝るんだこいつ。
「ほら、街を案内してもらってる間、私十四松くんとばかり話してたでしょ?一松くんだって私のために時間を割いてくれたのに、申し訳なかったな、って…」
「!」
……なん…なの、こいつ。
俺のこと無視してたんじゃないの?俺なんかより十四松と話してた方が楽しいから、俺の存在を消してたんじゃないの?
本当はずっと…俺を見てくれていたの?
…んだよ…それ。知らねぇよ。知らなかったよ。分かんねぇよ。
だって、慣れてないから。人に心配されることに。放置されて謝られたことなんて、今まで一度もなかったんだから。
こいつ…本当、なんなの。
「…いいよ、別に。騒がしいの、好きじゃないし」
素直じゃない。ひねくれてる。こういう時くらい、本音を言えよ。
…言えたら、楽になれるだろ。
「…一松くん…」
「……嘘」
「…え?」
「ほ、本当は…絵菜と十四松が、羨ましかった。俺もあんな風に話せたらって…でも、話せなくて。だから、もういいやって、諦めようとしたら…あんたに、心配された。それが、すごく…
う、嬉しかった…」
……言え、た。
改めて口にすると、なんて女々しいんだって思う。けど、これが嘘偽りのない、俺の本心。
兄弟にすら、ここまで自分をさらけ出したことなんてなかったのに、なんで言えたんだろう。
…絵菜、驚いてるな。無理もないか、キャラぶれっぶれだし。
引かれたかな…
「…ありがとう」
「……あ?」
聞き間違いか?今ありがとうって…
顔を上げて、絵菜を見る。笑ってる。さっきまでは暗かったのに。
「やっと思ってること、伝えてくれたね。やっぱり言葉にしてくれないと伝わらないことってあるから。だから、ありがとう」
「……」
「一松くん?」
…参ったな。
「ごめんだの、ありがとうだの、忙しすぎだろあんた…変なやつ」
ふっ、と、口元が緩む。
敵わない。俺が何を言おうが、こいつにだけは。
絵菜にだけは…。