第9章 僕らの知らない君【十四松、一松】
結局俺は友達限定クレープを3つ買い、絵菜と一緒に来た道を戻ることにした。
「ん、これあんたの」
「あ、うん。本当にお金いいの?」
「いいよこれくらい。…探させちゃったし」
「ふふ、気にしなくていいのに。ありがとう」
っ…ああくそ、調子狂うな…。
お礼を言わなきゃいけないのはこっちだろ。
絵菜が来なかったら、限定クレープは1万円だったし…いやそんなことよりも、
俺を追いかけてきてくれたことが…嬉しかった。
十四松と絵菜の会話に混ざることがなかなかできなくて、適当に口実作って逃げたクズ。そんな俺を、わざわざ。
お人好しにも程があるだろ。
…ああ、また期待する。
俺が分かりやすかっただけかもしれない。たまたまこいつが気になっただけかもしれない。
でも、心の奥底では、
少しでも、俺を…¨6つ子の中の一松¨じゃない。¨松野一松¨という、一人の男として、
彼女が見てくれていたとしたら、俺はどんなに幸せだろう…と、考えてしまうんだ。
他人なんて信用できない。他人となんて関わるだけ無駄。無価値。無意味。分厚い壁だったこの思考が、絵菜の前ではいとも簡単に崩れ去る。
人間不信なのは相変わらずだけど…絵菜だけは、信じられる。理由は、はっきりとは分からないけど、そんな気がするんだ。