第9章 僕らの知らない君【十四松、一松】
「一松兄さん」
「ん?」
「あそこのカフェにいるの、もしかして絵菜かな?」
僕は前方にあるテラス付のカフェを指差す。なんだかあのテラス席に座ってる女の子、絵菜にそっくりなんだけど、違うかな?
「…絵菜だ」
「だよね!おーいっ絵菜ー!」
偶然会えたのが嬉しくて、僕は彼女目掛けて駆け出そうとする。
「ちょ、バカ!」
でも直後、一松兄さんが慌てて僕の体を拘束した。
「え?なんで止めんのー?」
「自分からバレに行ってどうすんだよ!これは極秘任務なんだぞ!?」
「!サー、イエッサー!」
危ない危ない、ついさっきまでちゃんと覚えてたのに、絵菜の姿を見たら数秒で記憶吹っ飛んじゃってた!あはは、さすが僕!
あ、でも。
「一緒にいてあげたほうがいいんじゃないー?」
「は?」
「だってさ、その方が彼女を守れるでしょー?」
一松兄さんは腕組みをして、うーん…と考える。
けど首を振って、
「いや、だめだ。これから用事があるかもしれない。それにトド松に言われただろ、プライベートには首を突っ込むなって。俺たちはボディーガードじゃなくて、ただの偵察隊に過ぎないんだよ」
「う、そっかぁ…。!じゃあ彼女についていくのは?」
「ストーキング行為も禁止だって」
「でも、彼女の行動範囲を知っておいた方が、いざという時役に立つんじゃないかな?」
「………」
あれ、僕なりに名案だと思ったんだけど、一松兄さん無反応だな。
「おーい、一松兄さ…」
そこで、気付いた。
一松兄さんが凝視している先…つまり、カフェのテラス。
絵菜がこっちを見て、笑顔で手を振っていることに。