第3章 真っ赤な眼
夢を、見ていた。
夢の中でも、「これは夢だ」と分かる事が稀にある。この夢が、まさにそうだった。
夢の中の私は空を飛んでいた。
白い羽を伸ばして、空中散歩を楽しむ…まるで天使のようだ。
飛行を続けながら、私は右を向いて笑った。
…隣に誰かいるのだろうか。
私は隣の誰かに向かって、何かを言った。
何故だか、この夢に音はない。いや、私に聞こえないだけなのだろう。だから私は、夢の中の自分が何を言ったのか分からない。
すると、その光景を眺める私の目に、同じく羽を伸ばして飛行する男が映った。
男に笑い掛けながら、顔を赤らめる“彼女”。
男も、同様に赤面し“彼女”の頭をコツンと叩いた。それでも、尚“彼女”は笑う。
——ああ、頭が痛い。
“彼女”は私に似ている。だが、私ではない。なら!“彼女”は誰なのだろうか。
私にあんな羽はない。私は自由に空を飛ぶ事は出来ない。“彼女”の様に笑ったのは、どれくらい前だろうか…。
「——うっ…」
頭の割れる様な痛みが襲う。痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、…痛い…。
…すると、ザザーという音と共に、目の前の光景が崩れて砂嵐となった。
どこまでも、灰色の……
「…っ………」
やだ、痛いよ…。
誰か、助けて………。
「——久し振り…アリア」
優しい風が吹く。
目の前の真っ黒な瞳が、赤い眼をした私を映した。