第2章 帰り道
鞄からスマホを取り出し、母からのメッセージを確認する。
(今日発売のCDがあるの!お願い!買ってきて!)
母は熱狂的なアイドルのファン。毎回発売日がくると私に頼んでくる。仕事があるから買えないのも分からなくはないが、こういつも頼まれても困る。
「全く...しょうがないなぁ」
CD屋に行くともうあと2枚しか残っていなかった。母が仕事帰りに買おうとすれば、きっともう完売になっているのだろう。
1枚だけを残し、私はレジへと足を運んだ。
店を出ようとした時、不思議な男がいた。帽子を深く被って顔を隠しながら音楽を聴いていた。ヘッドホンをむりやり付けているのでとても不自然だった。しかし、特に何か盗もうとしているのではなさそうだったので、そのまま店を出た。
(あ、あのビル...)
この角度からは少ししか見えないが、朝、電車の中で見た夢と同じビルだった。明かりはほとんど点いていて、ガラスは一目で分かるくらい綺麗に磨かれていて夕日を強く反射していた。あの時とはうって変わって人もたくさんいるし、何も問題は起こっていないようだった。
(なんだ。夢だったんだ。)