第1章 『Trade 2→9 』影山
「あ……あの、影山くん。私、帰るね?」
掴まれたままの手首を離して欲しくて、俺に察しろと言ってるんだろう。
でも、さっきの話を聞いちまったら、耳を貸してなんてやれない。
「今他に付き合ってるやつ、いるのか?」
「え……いない、けど……」
の言葉に確信した。
俺が今日、ここに来た意味を。
タイミングよくこいつに会えたのが何故なのかを。
きっともう一度、俺にチャンスが巡ってきたんだ。
そうじゃなければこんな偶然、残酷すぎる。
俺はの腕を引っ張って、駅に向かって歩き始めた。
後ろで引っ張られているは明らかに動揺している。
昔はよく、こうやってこいつの腕を引っ張って歩いた。
自分のものでもないのに、よくやってたよな……
そう思うけど、結局今もやっていることは同じで。
俺はそういう意味での自分の成長のなさに辟易する。
「影山くん!どこ行くの?!」
「うるせえよ、予定ないなら別にいいだろ。」
「う、うん……」
影山くんが強引なのは変わらないね。
そう言ってが笑うから、俺の鼓動はまた早くなる。
やっぱり俺には、こいつしかいねえ。
一人で勝手に、俺はそう思う。