第1章 『Trade 2→9 』影山
「?影山くん………?」
気がつけば俺はの左手首を掴んでいた。
無意識の行動だったけど、俺はその左手に、指輪がないかを確認してしまう。
意外なことにその指には、光るものはなかった。
「お前、このあと予定でもあんのか。」
「え?ううん、そんな急ぎの予定は別に。ただ、帰って少しだけ仕事しようかなと思ってたくらい。」
「そうか………。」
の手を離さないまま、俺は言う。
こんな、探りを入れるみたいな聞き方、本当はしたくねえけど。
自分でも驚くくらい、俺は傷つくことに臆病になっていた。
「菅原さんは………元気かよ。」
俺の言葉を聞いた直後、は少しだけ俯いて口を開いた。
「あー……元気…なんじゃないかな。ごめん、私分かんないや。」
「え……」
「別れちゃったの。もう、一年くらい前になるかな。」
「そう、だったのか……」
「あ、誤解しないでね!孝く……いや、菅原先輩が悪いとかそんなんじゃないから!」
は何故か、慌てて俺にフォローを入れてくる。
でもそんな事も気にならないくらい、俺は動揺していた。
こいつは、もう菅原さんのものじゃない。
それも1年も前から。
それがどうにも信じられなくて、まともな反応を返せなかった。
二人が別れるなんて、ありえないことだと思っていた。