第2章 『Trade 9→2 』菅原
俺の言葉で、いくらか正気を取り戻したようなは、とろんとしていた目元を少しハッキリさせた。
「あの、私………別れたばかりなので。そんなすぐには気持ちの切り替えができないっていうか…」
「あいつとは長かったもんな。俺はそこまで長く付き合った子は居ないから想像でしかないけど、何となく分かるよ。」
「…………。」
「すぐにとは言わない。が、もう一度ちゃんと笑えるようになる日まで待つよ。だから、それまで側にいさせてくれないかな。」
「すがわら、せんぱい……」
の目に、みるみる涙の膜が張る。
「先輩は、なんでそんなに優しいんですか………」
そう、絞りだすように呟いたあとは、こらえきれずにその瞳から涙が溢れだす。
別に俺、優しくなんかないよ。
ただ、が欲しいだけなんだ。
自分の欲に正直なだけなんだよ。
昔も今も、そういう意味で俺は全然変わっていない。
泣き出してしまったの、肩を抱くくらいなら許されるだろうか。
そう思い、その肩に手を置いたけど、いざそうしてしまったら我慢できなかった。
そのまま引き寄せて、自分の腕の中に収める。
「よしよし。辛かったよな………」
髪を撫でて、できるだけ穏やかな声を出して、を落ち着かせるように努める。
傷心のに付け入るみたいになっているのは何だか心苦しいけど、そんなことは言ってられなかった。
だって、俺の好きな子が泣いている。
一番笑っていてほしい彼女が、あいつを思って泣いている。
俺は影山の代わりにはならないかもしれないけど。
俺は俺なりの方法で、の心に寄り添ってみせる。
絶対、忘れさせてやるから。
そう決意を新たにし、俺は声を出して泣くの背中をさすり続けた。