第2章 女王様と狂犬
「わ、悪い。許してくれ。本心じゃないんだ……」
困ったように笑いながら、ハチはこっちへやってくる。
その表情、絶対『面倒臭い事になった』程度にしか思ってないだろ?
伊達に三ヶ月も片思いしてないんだっての!
「お前なんてっ……」
言っちゃ駄目だ、俺の株が下がる。
俺は、いつも飄々としてて、クールで……。
「お前なんてっ、好きになんなきゃ、よかった!」
かっこ悪く捨て台詞を吐いた俺は、その場から逃げ出した。
スマホは一応取ってきたけど、このまま寮に帰るのも帰りづらい。
F6に見られたくないし、こんな時は委員長に会いたい。
いつもだったら、ハチに頼ってたんだけど、ハチはもう……。
「あー、カッコ悪い。あんなの俺じゃない」
そもそも、ゴリラなんか好きだった俺もどうかしてた。
なんで、顔も性格も最悪なゴリラを好きだったんだろう?
あーあ、ハチを好きだった事は、俺の黒歴史だ。
俺は、自分の顔を確認するために近場のトイレに入る。
そして、鏡を見れば目は赤く腫れ上がってて……。
ハチの癖に、ゴリラの癖に生意気だ。
顔を洗ってると、誰かがハンカチを手渡してくれた。
「あ、サンキュ」
って横を見れば……。
「こんのっ、糞ゴリラ!!」
目の前に居た、空気を読まないハチに蹴りを入れる。
もちろん、股間めがけて。
「ぐえっ!」
「ぶっ殺されたいみたいだね。いい根性してんじゃーん?」
蹲ってるハチの髪を掴みあげ、思いっきり膝蹴りを入れる。
すると、奥の方で「きゃぁっ」という悲鳴が聞こえた。
その声に気にする事無く、俺はハチを転がした。
そして、高い位置から思い切り、ハチの股間を踏みつける。
ハチのクグ曇った悲鳴が響いた。
その後、目を真っ白にして伸びてるハチを放っといて外へ出る。
そこには、怯えて目を白黒されてるお気に入り達が居た。
「あ、そこのゴミ片付けといて。じゃーね」
ひらひらと手を振って、B寮へ戻ろうと足を早めた。
その時には、既にハチの事は嘘みたいに吹っ切れてた。
どうせ、俺はF6と同じクラスになるし、奴らと一緒に徹底的にハチを叩きのめす事を誓おう。
この日から、俺のスマホに無言電話が入るようになった。