第6章 未知
「お止めなさい」
「!」
鋭い声がシュウの吸血を遮った
声がしたほうを向くと、そこには細く背の高い、真面目そうな男が立っていた
だが、彼の身に付ける眼鏡の下に映る瞳はひどく冷たいものだった
「こんな所で....恥を知りなさい」
「レイジ....」
彼の顔を見るなりシュウは鬱陶しそうにため息を付き、私の首から離れる
そして、レイジと呼ばれる彼は私の方を見て、少し表情を固くする
「貴方は....人間ですか」
アヤトくんといいこの人といい、一瞬で何者かを判断するなんて、やっぱり普通の人とは違うんだと実感させられる
「わ、私は立花ルカといいます
あの....」
どこか険悪なこの2人の雰囲気に私は圧されそうになっていた
すると、シュウが口を開く
「こいつは逆巻レイジ、俺の弟だ」
そう彼が言うとレイジさんは少し不満そうな顔をした
この2人は仲が良くないみたいだと何となく分かる
「それで、今度はこの方を夜会に招待するのですか?
いい加減、父上も呆れ返っているでしょうが」
「親父の気分なんかどうでもいい
俺は、香水臭い馬鹿な女と話なんてしたくもない」
「シュウ。本来、貴方は逆巻の長男として、家の契を交わすため政略結婚の話が無いわけではないのです。
貴方はもう少し父上の配慮に感謝すべきですよ」
政略結婚なんて聞き慣れない言葉を耳にしてますます、目の前の彼が遠い存在に思えてくる
レイジさんの言葉を無視する彼に私は少しもどかしさを覚える
ヴァンパイアの男性がこんなに綺麗なら
女性達だって、人間とは比べられないほど美しいはずなのに....
どうしてこの人はわざわざ人間である私なんかを....
ルカは堪らず口を開く
「あ、あの....シュウ....やっぱりーーー
『レイジ』
私が声をかけるとシュウは重ねるように声を発した
『俺はこいつと夜会へ行く
親父にも相手は居ると伝えておけ』
「っ....」
シュウは私の顔をちらっと見て軽く微笑んだ
私には分からなかった
彼がどうして私を選んだのかも
私の鼓動が高鳴る理由もーーーーー