第20章 9615km 日本
彼女のことを思って行った些細な事でも、喜んでくれると嬉しいもので。
やはりこちらも自然に笑顔になれて。
数ヶ月の空白が、こうやっていると埋まっていく感じがする。
会話が盛り上がり、いつのまにが急須の中の緑茶が無くなっていた。
「おや、お茶が切れてしまいました。すみませんがローナさん、新しいお茶を作ってきますのでしばらくお待ち下さい」
「はーい」
上機嫌らしく、声が高く聞こえる。
彼女の機嫌がいいと、私の心も踊る。
すぐ近くにある台所に入り、やかんに水を入れ火をつける。
その間にも、私は彼女の為に更なるおもてなしを考えていた。
恐らくこれが他国から謎がられる日本独特の文化なのだろう。
私にとってはこれが普通、謎がられる方が謎。
「夕ご飯は…なにがいいでしょうか」
西洋の方のお口に合う様な料理、簡単には想像出来なかった。
だいたい、イギリスと日本の食事文化が違いすぎる。
もっと勉強をしとくべきだったか。
火を弱めに設定して暫く考え込んでいた。
日本に来てまでイギリスの料理を作るのもどうかと。
だからと言って…本人に聞いてもアーサーさんの側に居たんだ。少なくとも、「俺は菊が作るもんならなんでもいい」とか言われるのでしょう。
近頃更にアーサーさんに似てきた気がするのは気のせいだろうか。
頭を抱えこむ程考えていた時、背中に異様な重圧。
「わっっ…!?」
間抜けな声を出しながらその場でよろける。
なんとかバランスを取り戻し、重さの正体を振り返って確認する。
「っ…ローナさん…?」
後ろには愛しい彼女が私に抱き着いていた。
しかし、フェリシアーノくんの挨拶にも慣れる事がない私にはとても恥ずかしくて。
「なっ…ローナさっ…どう…されました…?」
緊張などの気持ちで頭は今にも爆発しそうだ。
回らない呂律を精一杯動かし、あくまでも平常心を保つ。
しかし、少し待っても返事は返ってこなかった。
ただ、私の体を抱き締める腕の力が強まるだけ。
「……?」
「……本田」
「はっ、はい…!」
私の名前を呼ぶと腕から私を解放したと思いきや、今度は向き合う形で抱き締める。
私よりも10cm大きい彼女。自分の身長の低さを悲しくも実感しつつ、黙って彼女の体温を感じていた。