第20章 9615km 日本
「…よ、久しぶり」
金髪を横で結び、青緑の瞳を持つ高身長の彼女は、別人ではなかった。
片手をひょいとあげ、照れ隠しに不器用な挨拶をする彼女にすら愛おしいと感じてしまう。
「ローナさん、お久しぶりです、ようこそお越しくださいました。」
すぐにでも抱きしめたい衝動をなんとか抑え、居間へと案内する。
勿論のこと、ちゃんと靴を脱ぐように言ってから。
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「なんか雰囲気があって、落ち着く」
正座で座り、辛そうにしているのを楽な姿勢で構わない、と言えば痺れた足を痛そうに擦りつつ胡座に変えながら彼女は言った。
「その様に言って頂けると、嬉しいですね」
入れたお茶に角砂糖を1つ。
ローナさんに限らず、外国の方々には緑茶が苦く感じるみたいで、こう飲んでいるらしい。
別にどう飲もうかその方々次第ですし、私が口を挟む事は無いので何も言いません。むしろ文化の違いが見れて面白いと、感じてしまうのです。
「どうぞ、」
Thanks.と湯のみを受け取り、ゆっくりと甘くなった緑茶を飲む。
喉を上下に揺らし、そして湯のみから口を離してふぅと溜息をついた。
「…菊」
「はい」
「帝国様からなにか聴いたか?」
「……」
まだその名で呼んでいたのか。彼女のいう帝国様、とは聞かなくともわかる。
そういえば、随分やんちゃしていたあの時も今と変わらず、明るくその名で呼んでいましたね。
そうそう、「帝国様から何か聴いたか?」でしたっけ。
これはアーサーさんの為にも言わない方が良いのだろうか。
ツンデレのあの人のことだ、バレた時には布団をかぶって鎖国を起こしそうで怖い。
「いいえ。ローナさんをよろしく、以外は特に」
「そっか、ならいいんですけど」
そうはにかむと、茶菓子を手にとった。
もうすぐ秋だから、と色彩を赤や橙でまとめてみた和菓子。
こんぺいとうから最近話題の職人が作った高価な物まで、一品を少量。種類を豊富になるように。
目の前にいる彼女は和菓子を見て青緑の瞳を輝かせていた。
「菊!見ろよ!透明なゼリーの中に月が浮かんでるぜ!!」
いつもの紳士的な彼女は、今は居ない。
その代わりに、女らしい柔らかな笑みを浮かべた彼女が、そこにいた。