第16章 それだけだったのに。 普
「ッ!?」
目を覚ますとまだ陽射しが射していなかった。
目だけを動かして辺りを見ると、心配そうに俺の顔を見ている銀髪の少年と目が合う。
「ローナ、ローナ、…大丈夫か?」
まだ声変わりをしていなくても、あいつの声と大差無い特徴的な声音。
「(…何だ、夢か…)」
汗ばんだ自分の体が、冬の冷えを痛感させた。
夢ならそれでいい。それでいいのだ。
それでも、どこか晴れない自分の心。
「おい…?」
考え事をしていると周りが見えなくなるのは昔からの癖だ。
返事をしない俺に困った顔をしたソイツの頭を撫でてやる。短い銀髪は、見た目の割に柔らかい。
にへらっといつもみたいに笑う笑顔と小さめな頭蓋骨が、俺の母性本能をくすぐった。
ソイツの体を抱きしめて、再び布団に潜る。
まだ筋肉の付いてない、背の伸びていない体は抱き枕のように抱き心地が良い。
「なぁ」
「なんだ?」
「…なんでもねー」
おやすむぜー、と呟いた数3秒後には俺の腕の中から寝息が聞こえた。
「…なぁ、やっぱお前は…ギルなのか?」
最強ランクである魔女との戦いの後姿を消し、未だに帰ってこないギル。
彼が今、どこで何をしているかなんて誰にもわからないし、なにより生きているのかすらも分からない。
それでもきっと帰ってくるなんて抱いていた希望は、変な形で叶ってしまった。
下校中に偶然会った少年が、どっからどう見てもギルそっくりで。
しかも親は居なくて孤児院住みだと来たもんだ。
兄弟にも相談せずにすぐさま里親になる契約書を書いて、会った数時間で晴れてこいつの里親になってしまった。
実際に話してみると、やっぱギルそのもので涙で前が見えなかった。
でも、そいつと話す度に思ってしまうのだ。
“コイツとこういう形で再会したって事は、ギルはもうこの世に居ないのでは無いだろうか。”
心の底から少年との日常生活が楽しめないのが苦痛だった。
そんな俺の心境を見透かしているのかいないのか、無駄に大人びた対応を度々してくる少年。
それはそれで気を使わせているから、やはり俺が腹を括るしかないのか…
もう…今日は寝よう。変な夢を見て疲れた。寝よ。
銀髪を撫でてから目を瞑る。
「Good night.」
もう一度、笑って過ごせる日まで。
おやすみ。