第16章 それだけだったのに。 普
深夜のロンドンは空気が冷えて、隣にいる白いヤツと話したせいで血が登った頭を冷ましてくれる。
この時期の気温は俺が産まれた所とほぼ変わらないけど、それ以上に寒く感じるのは何でだろう。
「怒ってるのかい?」
「何がだよ?」
「仕方の無いことじゃないか、いくら巻き戻してもローナは僕と契約する運命なんだから。」
そんなの、分かってんだ。とっくの昔に。
もう、巻き戻して何度目の世界かも覚えてないこの世界でもローナは俺の為に自分の未来を犠牲にしてコイツと契約した。
信じたくない現実に目を背けて、契約する必要が無くなる為には俺が死ぬ運命を変えるしか無かった。
何度も何度も時間を巻き戻して、100回、200回、300回。
俺がローナを逃がす為に突き飛ばした時のあいつの顔が、今でもくっきり脳裏に焼き付いて離れない。
もう、あんな顔見たくねぇ。
“君が時間を巻き戻しても君が生き残れる確率はほぼ無いし、ローナの運命は変わらないよ。”
“それから君の魔女が孵化すれば、自動的に彼女も死ぬ運命になるんだ。初めて知っただろ?
さあ、君が今からどうやってこの運命に抗うか、楽しみだよ”
いちいち煽るような言い方が癪に障る。
どうすればいいか見当もつかないで、ただ黙ってあいつがしぬ所を目の当たりにして、何も出来ないことを嘆いていろとでも言うのか?
そんなの…
「ぜってぇに嫌だ、ったく…どうしろってんだよ」
「大きな声出すと、ローナが起きてしまうよ?」
「うるせぇ!だいたいお前のせいd……へぶしっ!…飽きた」
体が冷えたせいか、下を向くと鼻水が垂れてきた。
もう夜も遅いし部屋に戻ろう。部屋っていっても、ただの物置だけど。
「…やるよ」
そいつにグリーフシードを投げると背中の部分でキャッチし、満腹そうにけぷっと息を吐いた。
「例の魔女が孵化するまで、もう時間がないよ。」
「わかってる、今回はフランとトーニョもくるみてぇだ…ったく、お節介だぜ」
「ほんとだよ、死体の処理をする僕の身にもなって欲しいな」
ふざけたことを言うそいつを無視して、部屋に戻る。一応作戦だって何十も考えてるが変えられるわけがない。
俺はいつこの惨劇を変えることが出来るのか。
目を覚ましたら未来が変わってたら良いのに。