第16章 それだけだったのに。 普
「フラン!」
「…ローナちゃ…幸せに、…」
赤く染まった手袋で俺の頭を優しく撫でながら、いつもと同じように笑いかける。
それでもその笑顔には、ガキの頃から見てきた余裕ぶってる様子はどこにも無くて、
「俺の…分まで…、ね」
力なく微笑んで、そのまま力なく俺にもたれ掛かるとそれから声を発する事は無かった。
「…え?フラン…シス…?」
顔を叩いても、いくら揺すっても、変わらないその表情に恐怖を感じて、身体を支えてた腕の力が抜けた。
これで、もう兄貴たちは、死んだんだ。目を覚まさないんだ。
そう信じろとでもいうように目の前に広がる光景。
もはや人間ではない亡骸を見たまま動けなかった。
それでも魔女は待ってくれない。
「お前か…お前が兄貴を…皆を…」
濁っていくソウルジェムからライフルを召喚し、魔女に銃口を向ける。
震える手でスコープの中心に魔女を写す。
さっきまで動くことも出来なかったのに、おかしいね。
「…ッ死ね!!!」
ダンッッと鋭い音を鳴らして、銃口から青緑の軌跡を描いて放たれた。
その弾丸は、ブレること無く綺麗に魔女の弱点に命中した、
「…えっ?」
筈だった。
「……っ…、うそ、」
綺麗に心臓に命中した筈なのに、
「なん、で…」
なんで俺の、心臓に、穴が空いてるんだ?
「ガハッ…」
その場で血を吐くとズシンと鉛のように重い体が自然に倒れると持っていたライフルが魔力の減少で姿を消した。
魔女の背にある大きな全身鏡がキラキラと妖しく反射している。
「…あ゛っ、…ぐぅっ…う」
なんだ、人の最期って、こんなもんか。
兄貴やあいつらも、こんな感じで死んでいったのかな。
やっぱ、死んだ後って魔女になるのかな。 嫌だな…こんな気持ち悪いのになるのは。
「……殺せよ…、あいつらみたいに…」
魔女の叫び声が鼓膜に響く。 その叫び声を合図に、使い魔が四方から寄ってきた。
いつまでも攻撃してこない俺にしびれを切らしたのか、魔女が攻撃体制に入った。
「俺を殺せ…」
魔女と使い魔の攻撃に、俺は避けること無くその場魔女をにらみ続ける。
「…?」
一瞬だけ見えた魔女の顔は、どっかで見たことある気がする。
何だろう、懐かしい…
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