第16章 それだけだったのに。 普
「あ……、ああ…嘘、だろ…、」
それじゃあ、さっき俺が触ったのって……
考えただけでまた嗚咽した。
ジクジクとソウルジェムが濁っていくのが分かる。
なんで、いつ、いつこいつらは…
「あ、あにき…、兄貴っ…」
緑の服を纏った金髪のそいつを揺すってみる。
「兄貴っ…兄貴ッ…」
強く揺すっても一向に起きる気配は無かった。
起きない事は分かってた。それでも、起きて欲しくて、またいつもみたいに俺の事を注意して欲しくて。
「兄、貴ぃ……兄貴いいッッ!!」
いつまでも起きない伏せている兄貴の体を、仰向けに変えた。
左胸を一突きされている兄貴の肌は青白くて、冷たい。
亡骸に呼んでも返事をしないのは当たり前。
それでも目を覚ますと思って…いや、覚まして欲しくて。
「…ローナちゃん…?」
兄貴の亡骸に添うように倒れていた奴が、か細い声で俺を呼んだ。
「…フ、ラ…」
兄貴と俺何かよりもサラサラな金髪が、血で汚れて固まっていた。
「…ん、無事みたい…だね」
ヘラヘラといつものように笑ってみせるけど、血色も悪いし無理してるように見える。
「フラン…お前…」
「何て顔してんの…坊ちゃんに似てるんだから笑いなって…」
「笑えるわけねぇだろばか…」
「はは、そりゃそうだ、…っげほっげほっ!!」
痛そうに腹を抑えて縮こまると、咳をして大量の血を吐き出した。
「ッッ馬鹿!!お前こそ笑ってんじゃねぇよ!!」
「いやん…だって、ローナちゃんの前で弱いとこ見せたくないでしょ…?」
自分の命が危ない時に何言ってんだこの髭は。
普段ならそう憎まれ口を叩いているはずだが、今日の俺はいつに増して弱気だった。
先ほどの兄貴と友人の死が俺をそうさせているのかも知れない。
「嫌だ…やだよぉ……死ぬなよ…ばかあ…」
「泣くなって…笑いなよ、ね…」
そう弱々しく笑って俺の頭を撫でる。
こみあげる懐かしい気持ち。
「らしくないっ…っっ!!」
突然苦しそうに呻き声をあげると、フランが持っていた青色のソウルジェムが黒の禍々しい光を放つ。