第8章 Warmth Please 普
着崩したスーツでビニール袋を片手に持ったまま、こちらを見て同じくフリーズした同僚。
ドサッ、コロコロ。
落としたビニール袋から一つの真っ赤なトマトが転がった。
「……」
「……」
「……………」
重い、なんともヘビーな空気が漂う。
そ、そりゃあガタイのいい男がか弱い女の子組み敷いてたら童貞では無いアイツでもちぎ?ってなるわ。
つかとりあえず退けよギル。
「あ、ああ…ロヴィーノ…これは…」
「ちぎー!!白芋野郎!!てめぇローナに何してやがる!! Figlio di puttana!futtitinni!(変態!!すっこんでろクソ野郎!!) 」
絶対ピー音が入るだろう放送禁止用語をつらつらと並べていくのはもうご愛嬌と言ったところか。
会社で口にすれば確実に首を飛ばされるほどの汚い言葉を吐くコイツは先程言っていた同僚のロヴィーノ。
偉いとこの坊ちゃんだけどお互いこんなだからもう気を使わないでタメで遊ぶ仲。
話してみれば結構いい奴で、世話焼きな所もあって飯に頓着しない俺に「しかたねぇな」なんてブツブツ言いながらたまに料理を作りに来てくれるのだ。
それは非常にありがたい事なのだが…
今このタイミングで来てしまったのは運を恨むべきか。
ん?つか、こいつギルの事知ってんのか?
「おっ、フェリシアーノちゃんのお兄様!!やっぱそーだったか、イタリア人の同僚ってお兄様だったのか!!」
「うっせえ!いいからローナから離れろっつんだよ!!」
「えっ、なに、お前ら、どんな関係?」
「俺様んちの会社がお兄様んとこの会社と仲いいんだよ。 んで、昔から度々飯食いに行ったりしてんだぜ」
けっせせと何故か偉そうに話すギルとは反対に、嫌そうな表情で片方の耳を指で塞ぐロヴィーノ。
へーへー、二人揃ってボンボンだうーらーやーまーしーいー。
そう思う反面、友人が友人と知り合いだなんて、案外世界は狭いのかもしれないと少しばかり感動。
…なんて関心してる場合じゃない。
「とりあえずお前は邪魔」
いつまでも退きやしないギルの股間を思い切り蹴飛ばすと「ぎゃああああ!!!!」と耳障りな奇声を上げて部屋の端っこで転がり回った。
「フットサルで隠し玉とされるのローナの蹴りは転がり回るレベルじゃ…」