第8章 Warmth Please 普
家柄の関係上、女をとうの昔に捨て男の道を進むべく幼い頃から毎日欠かさず体力作りも筋トレもしてきた。
それでも周りと遥かに違うように育っていく声音、体格。
これ以上低くならない声。
筋肉も、もはや肉もつかない平らな胸。
くびれていく腰に丸くなっていく尻。
女と男の決定的な違いを見せつけられてるように思えてきて、自分自身が何なのかも分からなくなった。
そんな悩みを抱えながらも男として生きてきた俺に、まるで男と変わらない様に接してくれたのはコイツだった。
今考えればただ単にコイツが馬鹿なだけなのかも知れないが、俺にとってコイツとの時間はとても楽だった。
制服を着ていても分かるガタイの良さで察しはついていたものの、直では見たことない筋肉に時間も忘れて眺めて、触っての繰り返し。
筋肉がついている割に細い腰と小さい尻、それと反対に筋肉が付いているからこそ厚みのある胸に変な嫉妬心が沸いた。
「チッ…セコいぞファック」
男だったら今以上に仕事も入って胸も大きかったかもしれない。
そしたら“女だから使えない”ってレッテルも貼られないし“強い”ってイメージも付くから一石二鳥だ。
あ、でも筋肉って付けばつくほど体重増えるんだろ、男でも体重増えるのはちょっと無理だわ…
それでも兄貴みたいにモヤシにはなりたくないしな、良くてトーニョかなぁ…あいつ意外に筋肉付いてそうだし
「…お前なにしてんだ?」
ハッとして上を向くと、少し頬を赤く染めたそいつと目が合う。
青みがかかり始めた赤紫の瞳と目線が絡むと少し胸が痛くなり恐る恐る目を逸らした。
「…あ、ギッギギギギルちゃんGood evening.…よ、良く寝てたねー…あはっあはは…」
「Guten Abend.まぁな、飛行機って案外寝れねぇんだぜ」
「そ、そっか…あはっ、長旅お疲れ様ぁ…」
「お前キメェぞ」
せっかくの気遣いを遠慮無しにスルーする銀髪に拳を飛ばす。
「いてぇな!!なにしやがる!!」
「テメェのせいだ馬鹿!!俺が流してやろうとしてたのに!!」
「流すも何もねえだろ!!」
ったく、と上半身を起こした反動で俺の体は後ろに倒れた。
その時ソファーの手すりに頭がぶつかってお星様を見るハメになった。