第8章 Warmth Please 普
「…は?」
仕事からヘロヘロになって帰ってきたら、玄関に脱ぎ散らかした見慣れない靴を発見した。
その後に廊下に脱ぎ捨ててあるフードにファーのついたジャンパーを発見。
不審に思いながらジャンパーを踏み、リビングに顔を出す。
掃除は得意な方だ。
ただ、その綺麗な状態が続く期間が短いだけで、本当に掃除は得意な方なのだ。
最近掃除したのは丁度一週間前。
ちょっと散らかってきたかなって思ってたけど、これほど散らかってた覚えはない。
しかも今日の夕飯確定してたお気に入りのカップ麺から大人買いしたお菓子はもう棚に姿はなかった。
代わりに姿を見せたのは棚にあったはずのちょびっと残った汁が入っているスチロール容器と、そのお菓子の空き袋。 それから飲みかけのビール。
そして、兄から引越し祝いで貰った良い値段のするソファーに寝っ転がり、いびきをかきながら幸せそうに寝ている高校の同級生。
その容姿から“鬼”なんて恐れられてたコイツは結構な悪い奴で、よく先生も手を焼いていた。
喧嘩なんか日常茶飯事で、俺とも一回殴りあったもんだ。
いやそんな事どうでもいいや。
とりあえず退けよお前、人んち黙って入るんじゃねえ訴えるぞ。
またまたそこら辺に投げてあったデカめのバッグを漁ると、適当な枚数のジーンズとトップス、それから下着やら歯磨きやらがキチンと丁寧に入れられてた。
中身綺麗にするなら人んちも綺麗にしろよカス。
こんな荷物で何をしに来たのか、そしてこのもどかしいイライラを何処にぶつけたら良いのか分からずにいると、
「んん゛…」
寝苦しそうに寝返りをうったそいつの体重でスプリングがぎしっと音を鳴らした。
Tシャツの捲れた部分から見える脇腹。肌の白さと筋肉に、
「…ほほう」
俺の好奇心はいたずらに向上した。
白のTシャツと同じくらい白い肌に触れると、女の身体では到底味わえない筋肉の固さが手に残る。
訓練という自己鍛錬を重ねて出来たこの身体にもう見とれていた。
寝ている本人を邪魔してTシャツをもう少し上に上げる。オマケにコイツの上に乗ってもっと近くで見てみる。
綺麗に六つに割れた腹筋を指でつつつ、となぞる。掌でもう一度再確認すると高めの体温が掌いっぱいに広がって、心地よい。
これでも弟に負ける筋肉量だと言うのか。