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【ヘタリア】Jasper Green【短編集】

第32章 散華 日※閲覧注意




手から滑り落ちた脇差が、グサリと音をたてて畳に突き刺さる。
それと同時に膝から力無く崩れ落ちると、その場で品もなく泣き叫んだ。

目を覆う軍手が、ポタポタと伝う涙で雨に濡れたかのように水を吸い取って冷たくなっていく。

このままいっそ、消えてしまいたい。

突き刺さっているその脇差で、自分の腹を抉ることが出来たなら。

自ら死ぬ覚悟があったのなら。


そんな望みは泣きじゃくる声にかき消されて、姿を消した。


私の鳴き声を聞きつけて、白くて丸っこい身体を一生懸命に動かしてこちらに走ってきた愛犬。

くぅんと細い鳴き声を出したかと思うと、次々に溢れる涙を忙しなく舐めとった。


「…っ、ぽち、くん…ごめんね、ごめんなさい…」

「わんっ」

「そうよね…私がちゃんとしないと、本田さんが休んでいる今だからこそ…私がしっかりしないと…」


ふわふわな毛並みを撫でると、幸せそうに目を瞑りもう一度、さっきよりもハキハキした様子で鳴く。


濡れた頬を強く引っぱたいて脳内と目を覚まさせ、脇差を戻した後、膝と手の甲で彼の枕もとに座り直した。


あんなに騒いだ筈が未だに目を覚まさない事に戸惑った。
一瞬遮った一番最悪な思考を振り払い、彼の手を軽く握る。


その血豆だらけの小さな、私を撫でてくれたその手はとてつもなく冷たかった。


「本田さん…私が、私がこの国の未来を背負います…貴方が少しでも休めるように……」


琥珀色の硝子玉が隠れた閉じている瞳に向かって放つ言葉は、自分で聞いて分かる程に頼りない。


「貴方は充分頑張ったんです、少し位休んだって罰は当たらないですよ……。
仲間が敗れたって、貴方は一人で向かっていったじゃないですか。
負けたからって何ですか…負けが決まっていたって諦めない気持ちが、貴方のその心が、大切…なんです…。」

「わんっ、わんっ」

「それなのに…あんな物まで落とされて…。…本田さん、ねぇ…本田さん…」


止めたはずの、塩辛い水滴が再び流れ出した。
落ちたその真珠は彼の頬に音を立てずに降り注ぐ。


反応を示さない彼に、再び心臓が大きな音を立てた。

血豆だらけの並より小さな手に力を込め、愛しくて仕方ない彼の名を口にする。


ひぐらしの鳴く声が不安な心を更に拍車をかける。


「…なんで…、私はただ……貴方と平和に…」

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