第24章 可愛くない 伊
背伸びしたフェリシアーノは「俺のベッラー」と呟きながら頬にキスし始めたのだ。
恥ずかしがることなく軽やかなリップ音を立てながら愛を囁く。
これがイタリアでは普通なんだろうけど俺にとってはどうも恥ずかしくて。
「…フェリ、恥ずかしい」
「ヴェ?なんで??」
「いや…何でとか無しで、恥ずかしい」
「恥ずかしがる事じゃないよーだって好きだからやってるんだし」
曇った顔も見せないフェリシアーノ。
よくもまあそんな言葉を言えるもんだ。
最近になってやっとそこら辺の女の子に声をかけることも少なくなったけど、俺と付き合う前こそそれはもう日課のようにあっちこっちにナンパしに行ってて。
どうせ沢山の女の子に甘い言葉囁いてたんだろ、なんて今でも嫉妬してるのは俺だけの秘密。
「…おいこら服の中に手を入れるな」
「あ、バレちゃった。だってぼーっとしてるんだもん」
「バーカ」
頭を小突いてやると、細い腕を俺の首に回し、顔を耳の近くまで寄せた。
耳の裏までまんべんなくキスをして、
「ヤキモチ焼いた?」
意地悪く俺に囁いた。
「っな…、」
否定でないところを突かれて、そうでないと言う前に開きかけた唇を塞がれる。
彼らしい、悪戯なキス。
顔を退けると意味深に微笑まれた。
「…へへ、」
笑いながら俺のタンクトップの中に手を入れる。
くびれを指で伝ってわざとくすぐったいように触るその手をどかそうと試みるけれど、それを華麗に無視された。
やめる気のない過度なスキンシップに俺自身も段々と不覚にも体が火照り始めた。
「ん、可愛い」
「ばかにすんな」
「馬鹿なのはローナでしょ?こんなに愛してるのにそれに気づかないなんて」
「気付いてなかったわけじゃねーよ…」
「俺のこと疑ってたの?」
疑ってた…正解であり不正解でもある中途半端な俺の心情。
だいたいの元凶は俺の心の余裕の無さと自己嫌悪のせいだけど、ちょっとはあちこちで愛嬌振りまいているフェリシアーノも悪いと思ってる自分がいる。
「…ほかの女と話すから…」
「じゃあ、言うけど」
いつもの頼りないフェリシアーノはもう目の前にいない。
こいつの目つきがそう俺に伝える。
茶色の瞳が、揺るぐことなく俺を捕らえた。