第9章 クロ猫@黒尾鉄朗
ギイ…
乗っているブランコが揺れる。その時、俺の頭に水が掛かった。
雨は降っていない。ならなんだ。
顔を上げると、赤い目をした美心が慌てて目を擦った。
今のは美心の涙か?
…今の俺は、聞きたくても聞けない。声を持たないネコだ。
隣で背中をさすりたい。だが、さする為の手がない。
前の様に、「クロの手は大きくて心地いいな」って言われる、あの手が。
「ご、ごめんね。掛かっちゃった?」
「ミャア…」
「へへ、だよね。ダメだなぁ、私…」
ダメじゃない。悪いのは俺だ。
…そう言いたいのに、口を開いても鳴く事しか出来ない。
なんで俺は、ネコなんかになっちまったんだよ…。
自分に繋がる黒い尻尾を睨みつけた。只々、この身体が憎かった。