第20章 甘えたさん@孤爪研磨
「美心…」
家に帰ると、美心は俺の部屋のベッドに背を向けて座っていた。その様子からするに、多分手には本を持っている。
「はあい」
小さな声だったし、多分聞こえてはいないだろう…。
そう思ったのに、美心の優しい声がして、おれは驚いた。
美心は本が好きだ。いつもは、普通に呼んでも本に集中している時は周りの音が聞こえない様で返事がない。
今だって、返事はあっても振り返ることはなかった。きっと、物語がいいところに差し掛かっているのだろう。
知ってるよ、美心のことなら。
たくさん、見てきたから。
でも、ひとりで本を読むその背中が、名前を呼ばれて返事をするその声が、寂しそうで。その理由は、よく分からない。
おれはスポーツバッグを肩から下ろして、その背中に抱きついた。