第1章 Fall in Love!
「大丈夫ですか?怪我はない?」
長太郎が恐る恐る目を開くと、心配そうな少女が自分を覗き込んでいた。少女の持ち前の顔立ちの良さと逆光とが合間って、彼女はとても神々しく見えた。
ひょっとしたら彼女は天使か何かで、打ち所が悪くて天に召された自分を迎えにきたのではないかとさえ思ったくらいだ。
「もしかして、どこか打った?」
「あっ、大丈夫です、ありがとうございます!なんともないです」
次第に頭が回転し始め、長太郎は状況を理解した。
助けてもらったのだ。自分より小柄なこの少女に。
長太郎が慌ててお礼を言うと、彼女は微笑んで「よかった」と言い、長太郎の足を床におろし、立ち上がるまで手を添えて手伝った。
「本当に大丈夫そうでよかった。今度から気をつけてくださいね」
長太郎のブレザーにくっ付いていた糸屑をはらってやってから、少女は踵を返して階段を下って行った。
今し方のそれが俗に言うお姫様だっこであることに、最初に気付いたのはギャラリーの方だった。
当人たちはそんなこと気にしていないようであったが、周りは女の子が男をお姫様だっこで受け止めるという、常軌を逸した出来事に言葉を失っていた。
顔を真っ赤にして呆然と立ち尽くしていた長太郎に、日吉と樺地が駆け寄る。
「鳳、大丈夫か」
「だ、大丈夫…。ただ…」
「ただ?」
「心臓が、すごくバクバクいってる!俺、死ぬのかなぁ」
日吉は、初めて人が恋に落ちる瞬間を目撃して頭を抱えた。樺地は何も言わなかった。