第8章 期待値アンサー
「雪乃が遠くに行くのって、実感ないんだよね。いつも、手の届くとこに居たから」
そっか
カルマは、毎回届いてたんだ
届かなくなるのが、届かないのが……非日常なんだ
「……………………」
「……………………」
それから暫く静かで
カルマの顔を見たいけど
視界は赤い髪しか写らない
でもどうでもいいんだ
この人の腕のなかに居れるなら
何度でも私は思う
もうどうなっても構わないと
「………………」
「……カルマ」
「………………」
「"いってらっしゃい"って…………言ってくれるよね」
「………………」
「私に"勇気"、くれるよね」
「…………当たり前じゃん」
強ばってた腕が緩んで
ようやっと、顔が見える
……泣いてた、のかな
だから、見られないようにしてたのかな
「……雪乃も、俺にこだわらなくていいからね。好きなやつができたらそいつと幸せになればいい……俺は怒んないから」
「うん」
「んじゃ、これで本当に最後…………デートとか、してあげられなくてごめんね」
「いいよ……私と居てくれたのだけで」
「……これ言ったら、もう、雪乃の自由だから」
自由……
所有するものが少なくなる
カルマという大切な関係が……なくなることだ
私は何に囚われなくてもいい
「…………"いってらっしゃい"……残り少し、よろしくね」
「……うん…………ありがとう。"いってきます"」