第5章 日常②。
私の心臓がドクンドクンと忙しく動く。やっぱり今日の私はへんだ。それから駅までの間、私たちは一言も交わさなかった。
話しかけるのもなんだかためらわれたし、影山くんが始終赤かったから、私まで緊張してしまった。
『あ、私、マンションここだから…』
「おう」
影山くんは丁寧にマンションの入り口まで送ってくれた。
『今日はありがとう。カサ、助かった』
今度お礼させてね、と私が言うと、照れたように笑った。
『あっ!』
「な、なんだよ…」
そうだよ、そうだよ!
一番大事なこと、忘れてたじゃんか!
『影山くん、明日って部活休みでしょう?』
「ん?そうだったな…」
『買い物に付き合ってほしいなぁ、と…』
「俺に?」
『うん。翔ちゃんに誕生日のプレゼント買ってあげたいんだけど、男子ってどういうのを貰ったら嬉しいのか皆目見当がつかなくて…』
「日向…」
影山くんは翔ちゃんの名前が出たとたん、あからさまにイヤそうな顔をした。もう少し隠すとかしようか、うん。
「でも朱里、兄貴がいるだろ」
『残念なことに出張で青森に…』
影山くんの眉間にしわが寄った。本当に肝心なときに役に立たない兄さんだ。
『急だったよね…ごめん、忘れて!』
曖昧に私は笑った。仕方ない、月島くんにでも頼もうかな…と呟くと、ものすごい勢いで肩を揺すぶられた。
「つ、月島ァ!?」
『うぇっ、あの、影山くん、落ち着いて…』
がくがく揺すられて脳ミソが酔いそうになる。脳ミソって酔うのかな?ようやく手が離れたかと思ったら、影山くんがボソリと呟いた。
「…………く」
『えっ?』
「だから!俺が行くって言ってんだよ…」
『ほ、ほんと!?』
語尾にいくにつれて、ボリュームが小さくなったけど、俺が行くとはっきりと言ってくれた。
『影山くんありがとう!』
「朝の10時に駅前のハミマでいいか?」
『了解しました!』
最後にもう一度、ありがとうと伝えて、マンションに入った。
その夜、私は、明日は何を着よう?とか影山くんの私服ってどんな感じかな?とか、柄にもなくワクワクしていた。
結局寝たのは12時近くて、布団に入るとすぐに寝てしまった。