第5章 日常②。
マンションのある駅まで歩いてだいたい20分かからないくらい。いつもは自転車なんだけど、雨が降るのがほとんどだから、最近じゃ歩いて登校してる。
二人分の足音と、雨粒がカサを叩く音だけが辺りに響いている。とくにこれといった会話はないものの、私はこの雰囲気が嫌いじゃなかった。
『私さ…』
「ん?」
『けっこう好きなんだよね、雨』
「なんでだ?」
『雨がね、汚いものとか全部綺麗に洗い流してくれる気がして。バレーは好きなんだけどマラソン大会とか運動会は嫌いだったから、小学生の頃はよく逆さまてるてる坊主作ってたっけ』
どうでもいい話だけど、影山くんは相づちを打ちながら、真剣に聞いてくれた。
『影山くんの好きな食べ物ってなに?』
「お、話題変えたな」
『だって私ばっかり話してるじゃん』
「…ポークカレー温玉のせ」
『へぇ…』
「いや、続けろよ!話し振ったのお前!」
あのなぁ…と頭をがしがし掻く影山くんがおかしくて、思わず笑った。
『あっ!』
「あぁ!?」
『肩、濡れてる』
私の方にカサを寄せてくれてる分、影山くんがカサからはみ出して濡れていた。
「お前が濡れなきゃいいんだよ」
フッと小さく笑った影山くんに、ちょっぴりドキッとした。へんに女子扱いしてくるから調子が狂う。でも、だからといって影山くんに風邪をひかれるのは心外だったし、私のプライド(あるか知らないけど)が許さない。
『えいっ』
「朱里っ///」
私は影山くんに肩を寄せた。影山くんが一気に耳まで朱に染まる。お互いの肩が触れ合うような距離に、またしてもドキッ。
今日の心臓、なんかへん。