第5章 日常②。
「ひゃあ、って色気ねーな…」
『そんなのなくてもいいんですー』
「…さっきは悪かったな…」
『っ!』
まさか影山くんが謝るとは思ってなかったから、私は少し面食らった。
『ううん、私も言い過ぎたから。お互い様ってことで』
「ん。ところでお前、なにしてんの?」
『えーと、カサがなくてこれじゃあ帰れないな~みたいな感じデスネ…』
そうだったのか、影山くんは納得したように頷いた。我ながら情けないや…
仕方ない、濡れて帰ろ…
覚悟を決めて帰ろうとした私の目の前に差し出されたのは、黒い無地のカサ。
『影山くん?』
「ねーんだろ、カサ」
『いや、でも…影山くんはどうするの?』
「こんな雨、へいきだろ」
『ダメだよっ!』
急に大声を出したので、影山くんは驚いた顔をした。私も思っていたより大きな声が出たので、少しびっくりした。
『だから、その、風邪ひくから…』
「んなの気合いで治るだろ」
影山くんは、ほら、とカサを私の方にずいっと押し付ける。どうしても譲る気はないみたい。なんかいい方法…
あ、いい方法あるじゃん!
『影山くん、駅って学校に一番近いところでいいんだっけ?』
「おう」
『じゃあさ、一緒に使お、カサ!』
「お、おう///」
かくして、私たちは一本のカサを二人で使うことになるのでした。
(これってあいあいがさ、なのか?)
そして、影山くんがそんなことを思っているとは微塵も知らない私でした。