第1章 プロローグ。
トーンットンットンッ
私はアンダーでボールを上げ続ける。トンットンッとテンポ良くボールが弾む。二人の視線が私に集まるのも気付かないくらい私は夢中になっていた。
指が、手が、腕が。
感覚を覚えている。
ボールに触れるのが楽しい。
『ほっ!』
最後にオーバーで軽いトスを上げて右手でボールを打ち、それは黒髪の男の子の腕にすっぽりと収まった。
「あっ、アザっす」
ボールが戻ってきたことに驚いたのか、目を丸くさせながら小さく頭を下げた。
「おい日向!って…日向?」
"日向"くんは自分が呼ばれるのにも気付かないくらい、私をじーっと見詰めている。
そんなに見詰められると何か動物園の動物にでもなった気がする…
『久し振りだね、翔ちゃん!』
私がそう言って笑うと翔ちゃんはみるみる笑顔になって突進してきた。
「アカリーっ!!!」
目がキラキラしてて犬みたい。←
ガバッと抱き付いてきた翔ちゃんの勢いに負けて私は尻餅をついてしまった。
ポカンとする黒髪の男の子。
私に抱き付きすり寄ってくる翔ちゃん。
どんな状況だ、これは。
「アカリアカリアカリ~っ!」
「これ、何の茶番?」
声のした方を見遣ると、着替えからいつの間に戻ったのか月島くんと山口くんが呆れたような怪しむような顔をしていた。
『月島くん、山口くん…翔ちゃんどうにかしてくれないかなぁ、動けない』
「アカリ!いつから、何で?何でこっちにいんの!?」
『うん、翔ちゃん。一回落ち着こっか?』
抱き付いてくる翔ちゃんをベリッと引き剥がして改めてその顔を見てみた。満面の笑みを浮かべたそれは今も昔もちっとも変わっていたかった。
そして、私はいつもみたいに笑って言った。
『ただいま、翔ちゃん』