第4章 インターハイ予選。
『急にどうしたんです、熱でもあります?』
「無いよ!純粋に朱里ちゃんに名前で呼んで欲しいの」
及川さんの目は真剣で、思わずその瞳に心を奪われそうになる。この人きっと天然の"人タラシ"なんだ←
『…どうしてもですか?』
「うん、どうしても」
呼んでの一点張りで、及川さんは妥協してくれない。仕方ない、私が一歩譲ろう。
『流石に出会ってすぐ、しかも年上の人を呼び捨てにする程神経図太くないんで。とりあえず…徹さん…でどうでしょう?』
「っ///」
『…?徹さぁん、聞いてます?』
「うんっ、聞いてる、聞いてるから」
うわヤバい、と言いながら及川さんは顔を片手で覆った。何がヤバいの?
(この子、自覚ないんだ…)
顔から手を外した及川さんは爽やかな顔で笑った。
「うんそれでいいよ、アリガト。それよりもほら、試合終わりそうだよ」
『え、嘘でしょ!?』
及川さんに言われて慌てて得点を見ると、烏野は既に20点代だった。及川さんのせいで2セット目殆ど観れてないし!
恨めしそうな目で及川さんを睨むと、舌を出してウィンクされた。
「お前こんな所で"うへぺろ☆"すんなや!」
うへぺろ☆をした及川さんはすかさず岩泉さんに叩かれた。
うん、ドンマイ。
そうしている内に試合は終わった。2セット目は14-25で烏野のセットポイント。烏野は初戦をストレート勝ちした。
次の試合がすぐに始まるのでコートから素早く立ち去らなければならない。勝者も敗者もそれぞれ余韻に浸る時間は無いのだ。
部員が片付けて出口に向かう中、翔ちゃんは一人、コートに立っていた。勝った、と小さく呟いたのが聞こえた気がした。