第1章 プロローグ。
『何してんのって言われても…本を読んでいるとしか言えないんだけど?』
首を傾げて訊き返すと月島くんはハァ…と溜め息を吐いた。
「そうじゃなくてさ、逢原(あいはら)とかといないのってこと。女子のネットワークは色々大変なんデショ?」
『ああ、そっちか』
"逢原"というのは同じクラスの逢原優季(あいはらゆき)のこと。先程、私が"ユキちゃん"と呼んでいたかのじょのことだった。どうやら月島くんは私がユキちゃんといないことに疑問を持ったようだ。
『お昼食べよって誘われたよ。でも、今日の昼休みには学校を見て回りたかったし明日から一緒に食べよって約束したから、へーき』
「ふーん、そっ」
そう言うと月島くんは手摺にもたれ掛かってヘッドフォンを着け、音楽を聞き出した。
私は読みかけのページに目を戻した。ちょうど、主人公が敵と一騎討ちをしているところだ。勝敗はどうなるのか次のページを捲ろうとしたとき、屋上に一つしかないドアの向こうから慌ただしい足音が聞こえてきた。
「ツッキーっ!」
バタンッという音と同時に一人の男の子が屋上へと転がり込んできた。黒い髪のてっぺんには寝癖らしき髪がピョンと跳ねている。顔のソバカスが印象に残りそうだった。
それにしても…
月島くん、ツッキーって呼ばれてるんだ。
何か顔に似合わず可愛い呼び名だなぁ。
これって本人にバレたらだいぶ嫌そうな顔するんだろうなぁと思いうと、自然にクスリと笑みが零れた。